TWENTY-FIRST CENTURY TAILORING

STYLE/DESIGN

TWENTY-FIRST CENTURY TAILORING

21世紀のテーラリングを目指すAbasi Rosborough

Interview and text: Diego Hadis / Portrait: Ports Bishop / Translation: Kana Ariyoshi

ニューヨークからこの秋デビューしたファッション・ブランド<アバシ・ローズボロー>のデザイナー、アブドゥル・アバシ、グレッグ・ローズボローの過去の軌跡を見た時、二人がデザインの道を選んだのは、意外かもしれない。2006年にファッション工科大学(FIT)で出会ったふたりだが、ファッションにたどり着くまでには、長い道のりがあった。アブドゥルは、高校を卒業後、米軍でアパッチ・ヘリコプターの修理工をしていた。グレッグは、思春期のほとんどをスポーツをして過ごし、アリゾナ大学でビジネスを専攻した。FITから卒業したのち、アブドゥルはエンジニアド・ガーメンツで、グレッグはラルフ・ローレンで経験を積みながら、二人は時々会って、デザインについての意見を交換した。そして会合を繰り返すうちに、二人でブランドを立ち上げることを決めた。ディエゴ・ハディスがふたりにインタビューした。

ディエゴ:アバシ・ローズボローを立ち上げることになったきっかけは?
グレッグ: あるとき飛行機に乗っているときに、細身のスーツを着ている男性のフライト・アテンダントが、乗客のカバンを頭上の棚に載せようとした。ところがジャケットが邪魔をして、カバンを持ち上げることができなかった。だから彼は、バッグをいったんおいて、ジャケットを脱ぎ、バッグを収納して、それから再びジャケットを着用した。デザイナーとして僕は、それを見て「今、大変な間違いが起きた」とおもった。人間の腕は、頭の上に上がるように進化しているのに、この上着がそれを止めている。そしてその上着は、世界中の男性たちが日常的に着ているものだ。だから考えるようになった。「なぜスーツを着るんだろう?なぜこのスーツを変えることができないんだろう?」と。毎年、ただ塗装だけを変えた新車のように、同じスーツが作られ続けている。そこに進化はない。1870年、1880年のころとほとんど形を変えないまま、今もなお紳士服のスタンダードとなっている。細部を見ると、古い様式がそのまま残っていることがわかる。そもそも乗馬服と軍服をもとに作られていて、どちらも日常服ではない。軍服は肩をうしろに引き胸を張るように作られているし、ジャケットのカフスボタンは、かつての軍服の大きな金ボタンの名残りで、兵士たちが制服の袖で鼻をふかないようにするためのものだった。それがそのまま普及して、今では意味もなくついているただの飾りになってしまった。二つボタンのジャケットでも、ボタンをひとつだけ留める習慣は、エドワード7世のお腹が出ていて両方のボタンを留められなかったからという。100年以上も続くトレンドになってしまうほどの影響力が、エドワード7世の着こなしにはあったわけだ。今こうして余計なボタンがついているのは、王様がちょっと太っていたからで、それが着こなしのお手本になっている。まったく奇妙なことだよね。
ディエゴ: つまりその余計なボタンには目的はないと?
アブドゥル: その通り。
グレッグ: 時代は進んでいるのに、スーツは変わらない形でありつづける。たとえば、軍服の肩パッドは、体形を逆三角形に見せて男性らしく立派な肩幅があるように見せるためのものだし、さらにビクトリア朝時代にさかのぼれば、ラペルは、頭部が花の中心に見えるようにと、花びらのように仕立てられていた。でもすべて、もう今の時代にはそぐわないものだ。これを新たに進化させて、「現代に生きる男性のために、21世紀らしいテイラリングを考えてみよう」と僕らが思ったときに、なにから始めたかというと、スーツのパーツごとにそれぞれの必要性を考えてみることだった。そして不要な部分を取り除いていく。かつてのスーツは体のラインに合わせてデザインされたものではなく、ある種の拘束衣としてデザインされていたため、着る人を考えた作りの服ではないんだ。
アブドゥル: 僕らのアプローチは、マイナスの考え方。なにかを加えるのではなくて、なにを取り除くことができるのかを考えること。人間の体は数百万年かけて進化してきて、そのなかでベストなかたちになっている。そこで「どうしたら体のつくりを邪魔しないようなものを作ることができるのか?」と考えた。現代のニューヨークで暮らす男性、そしてひとりの人として、自分たちが衣類をどう着ているかを考えた。僕個人は、すべてのエレメントが調和する、重ね着、つまりモジュール式の着こなしが好き。僕らのコレクションを見ると、ルックがたくさんあると思うかもしれないけれど、使っているアイテムは実は同じなんだ。
ディエゴ: コレクションを見て初めはいろんなデザインがあるんだと思ったけど、実際は同じジャケットを使っていろんな着こなしをしていることにあとで気づいた。
アブドゥル: Eそういうこと。パーミュテーション(置換)のコンセプトなんだ。僕らの商品は安くはないけど、ジャケットを買えば二通りの着こなしができるし、シャツとジャケットは重ね着できるようになっていて、すべてが一緒に組み合わせられるようになっている。人間の体のようにね。僕らの体は組織、骨、腱といった層が何層も重なっていて、さらに表皮の下には筋肉、靭帯があって、それぞれが伸縮している。けれどもお互いに妨げあうこうとはない。すべてが重なり合っていてちゃんと機能している。
天然素材を使っているのもあって、暑ければ一枚脱げばいいと思うし、寒ければまた重ね着すればいい。ベースとなる服に、ドレスシャツやオーバーシャツを重ねてみたり、その上にジャケットを着たり。ジャケットはリバーシブルになっていて、ちゃんとしたきれいなシルエットで着ることもできるし、裏返しにすればちょっとしたグラフィックも入っている。昼から夜までシチュエーションに合わせて着られる。
ディエゴ:つまり、このコレクションは、本当にモジュラー式ということ?
アブドゥル: 自分たちにとってベストな表現方法だと思った。僕らがデザインするのは洋服の着こなし方。だから、「今シーズンはアメリカーナで、来シーズンは開拓時代の西部をテーマに・・・」というようなことではない。僕らのテーマは人間の体で、たとえば、iPhone 4に続いて新機能が搭載されたiPhone 4sや5が登場するように僕らはデザインしていきたいと思っている。シーズンごとに、微調整をしながら改善していく。これが最終形だということにはならないけれど、常に究極の形を求めて努力を続ける。細部にこだわって調整したり、試行錯誤を繰り返しながら、答えを見つけて、何を使うか、何を使わないのかを探っていく。今は、これが僕らの考えるコンテンポラリーなスーツだけど、でももしかしたら次のシーズンではもっと体にフィットするものや動きを調整したりするようなものを発表できるかもしれない。まだ進化の途中なんだ。
ディエゴ:これからも進化し続けるということだよね。
グレッグ: もし最先端のものを追求するなら、皮膚のような一着の大きなボディスーツを作ればいいけど、あまりにも極端なものになると現実離れしたものになってしまうから、あくまで現実的なラインを進化させていくべき。一着のスーツではあるけれど、それだけにはとどまらない。僕らがめざすデザインの方法は、すでに存在しているものをベースに、改善する。それこそがファッション・デザイナーとしての仕事だと思っている。デザイナーの多くが、自らの仕事をスタイリングすることだと思っているけどそれは間違っている。デザイナーの仕事は問題を解決することだ。
アブドゥル:実は最初に作ったプロトタイプは、最終的にできたコレクションより、ちょっと進んだ感じのものだった。でもちょっと後退することにした。なぜなら、みんながすでに持っているスーツを改良したものを作りたかった。スポーツウェアとフォーマルな装いのそれぞれが持つ良さをひとつにする。「ストレッチ素材100%の生地でジャケットを作ればいいじゃないか」という声もあるかもしれない。もちろんそれは簡単だけど、ストレッチを優先して生地を選ぶことになる。そこで僕らは人間の体のことを考えた。堅いところ、柔らかいところがあって、伸びたり縮んだりもする。(ブレザーを着ながら)このジャケットはコットン100%で、伝統的でナチュラルな仕上がりになっているけど、動きやすくするために脇の下にニットを使っている。飛行機で見かけたフライト・アテンダントの姿をきっかけに作ったもので、彼のジャケットの場合、上下の動きを想定せずに仕立てられたものだったから、僕らはストレッチ素材をこの脇の下の部分に使うことにしたんだ。
ディエゴ:すべて天然のストレッチ素材なんだよね?
アブドゥル: そう。
グレッグ: 化学繊維を使わないということにもこだわっている。人間の体と同じように、天然繊維も長い年月をかけて進化してきた。僕ら人間はドライ・フィットなら長く使っていけると思っているけれど、実際にはポリエステルと変わらないし、そのものにほかならない。ウールはどんな合成繊維より質がいいし、コットンだって同じだ。
ディエゴ: 良さはすでに証明されている。
アブドゥル: その通り。当たり前のことに開眼させられるときがある。自然はそのままで完璧な存在。生態系、そのなかで進化を遂げてきたもの、それらが調和して共生している。親水性があり、温度と湿度が調節できるようにと長い年月をかけて進化してきたウールがあるのに、どうしてゴアテックス素材のようなものを開発しようとするのだろう?
グレッグ: 昔ながらの仕立て方のなかで僕らも続けているのは、hymoという100%馬の毛を使用したハンド・キャンバスだ。ジャケットの前身頃は、これを使って、手で仕上げられている。140年前と同じ方法で、男性的なフォルムを仕立てるのにいいと思った。少したるみがでるけれど、スーツに求められる力強さというか重々しさがでると思うから。
こうした試行錯誤をくり返していくなかでわかったことは、不要な部分を取り除いて内側をきれいに仕立てることで、折り襟や肩パッドもないからリバーシブルにできるということ。まずは同じトーンの裏地を使ってみたんだけど、「もうちょっと斬新なアイデアで遊び心を加えられるんじゃないか」と思ったんだ。ひとつはモノクロでコンサバ、反対側はよりファッションらしく。
さらに、使いやすくするためにストラップもつけている。古いハンティング・ジャケットによく見られるもので、たとえば、美術館に行ってジャケットを脱ぎたくなったとき、手に持ちたくなければ肩にかければいい。
ディエゴ: 僕らが着ているスーツのルーツが過去にあるという意味では、このコレクションは未来的かもしれないけれど、実際にはコンテンポラリーということなんだよね。
グレッグ: その通り。誰かしらが「スーツは進化するものだ」と声をあげて動き出さなければいけなかったんだ。2100年に、まったく同じスーツを着ていることはありえない。それに一度僕らのスーツを着てもらうと、着心地のよさはわかってもらえる。ファッションで自己表現をするというよりも、僕ら人間は心地よさのほうにシフトしていっていると思う。それは食べ物にも、住まいにも言えることだと思う。「着ていて心地よいうえに、かっこよく見える」っていうのがポイント。
ディエゴ: アバシ・ローズボローの立ち上げにいたるまでに、FITを卒業してからはどんな経験を?
アブドゥル: 僕はエンジ二アド・ガーメンツのアシスタント・デザイナーとして採用されてしばらく働いたあと、ネペンテスのストアで働いていた。日本人が多いEGから、学ぶことが多かった。実際に何かをするんじゃなくてまずは観察するところから始める、それが実はとても重要で、ものを見る目が養われたと思う。デザイナーとしてはまずは全体的なデザインをしたいところだけれど、ディテールこそ日本人が得意とするところで、そういう部分は今僕らが作っている服にも生きていると思う。ディテールにこだわっているし、ディテールこそが服を作ると思っている。
ディエゴ: グレッグは、ラルフ・ローレンでの経験からどんなことを学んだ?
グレッグ: 言うまでもないけど、ブランディングの重要性。それからポロのデザイナーとして学んだ一番大切なことは、すべてはストーリーテリングだということ。ラルフは優れた語り部で、彼のストーリーは必ず場所、そしてシチュエーションをもとにしている。もしサファリに行くなら、バルバドスに行くなら、アラスカに行くなら、イギリスで狩りをするならーーそれがどこであったとしても、ラルフは服を通してそのときの気持ちをとらえて表現する。そこから感じられるストーリーが人を惹きつける。それから「最高の素材を選べ」ということ。それと反面教師的なことは、例えばポロシャツやラグビーシャツからポロのロゴを取ってしまえば、それがポロなのかカルバン・クラインなのかトミー・ヒルフィガーなのか、高いのか安いのかなんてわからないってことだ。ブランドが違うだけでほかは全部同じ。だから「自分たちのロゴをつけるだけで誰でもデザインできるようなものは、もう二度デザインしたくない」と思ったんだ。僕らのブランドのロゴを外したとしても、これが僕らのデザインしたものだとわかるもの、それが僕らの作る服なんだ。
アブドゥル: デザインによってブランディングする。ただ見るだけで、どこのブランドかわかる。リック・オウエンスやヨウジ・ヤマモト、それからコム・デ・ギャルソンもそう言える。彼らのデザインを見れば、「これはたぶんコム・デ・ギャルソンだよね」とわかる。裁断の仕方とか、そのユニークさとかから。僕らもそうありたいと思う。ロゴだけでブランディングされるものじゃなくて、ただ見るだけでわかるものを作りたい。「アバシ・ローズボローらしい感じだよね」なんて言ってもらえるように。

Tags:
  • #Abasi Rosborough #Engineered Garments #Polo #Ralph Lauren

10.01.2013

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