WILD WORLD OF NATURAL FRAGRANCE

STYLE/DESIGN

WILD WORLD OF NATURAL FRAGRANCE

パフュームのコンセプトを覆す天然フレグランス

Interview: PERISCOPE / Photography: Ports Bishop / Transcription: Kana Ariyoshi / Translation: Junki Ikeda

都会を離れたとき、初めて都会特有の匂いに囲まれていたことに気がつくときがある。世界で唯一の「ワイルド・フレグランス」ブランド、<ジュニパー・リッジ>は、ビッグ・サー、モハベ・デザート、ユバ・リバーといった大自然の名所からもってきたハーブ、木、マッシュルームなどを使って抽出した香りの商品で、都会にいながらにして、自然の香りを体感させてくれる。<ジュニパー・リッジ>のファウンダー、ホール・ニュービギンに話を聞いた。

フレグランス・ブランドを始めた経緯は?
僕はポートランドで育ち、高校生の頃はよくバックパックで旅に出ていた。大学に通うためにニューヨークにやってきて、ニューヨークは心から好きだったけど、西海岸を恋しく思っている自分に気がついた。僕の中には、カリフォルニアや北西部の太平洋沿いの地域にある、気持ちよく、豊富な生態系、そして森林の奥に広がる大自然を渇望していたのだろう。大学卒業後、サンフランシスコに移り、家の塗装をしたり、派遣社員として働いたり、父の手伝いでスプリンクラーの販売をしたり、いろんな仕事をした。あるとき、植物療法に通うことにした。そこで医療目的の野生のキノコや野生植物の収穫のやり方を学んだ。そこから、シロップやジャム、お茶を作るようになった。友達のために作っていたんだけれど、彼らに励まされて、90年代の終わり頃から、ファーマーズマーケットで販売を始めた。
<ジュニパー・リッジ>の最初のプロダクトは何だったの?
最初に作った商品は、インセンス(香)と石けんといったいたってシンプルなものだった。それから収穫したセージの束を作ったり。最初から、僕がやりたかったのは、石けんメーカーやお香メーカーになるということではなくて、山の中にいるような気分を、人々の家庭に届けることだった。いまだに、ジュニパー・リッジが目指しているのは、そこから変わっていない。最近は、サステイナブルな方法で天然の原料を、大規模に収穫するために米国農務省林野部と協力している。また、昔より機能のいい蒸留設備を手に入れることができて、以前より洗練された方法で、フレグランスを抽出できるようになった。
つまり自然を消費者に届けたいということ?
そう。山にいるのが大好きなんだ。たとえばきのこを採る人たちは、自然のなかで四つん這いになって、自然に同化する。ただ森の中を歩いたり、山で走ったりするだけじゃない、自分の五感、動物的な本能を呼び覚ませば、自分の中で何かが目覚める。その本能は誰の中にもあって、いつ目覚めてもおかしくない。僕ら人間を進化させてきた要素の一つであって、それはニューエイジ的な概念とか、スピリチュアル的な概念ではなくて、人間も動物だから、自然と関わりあいながら進化していくというだけのこと。自然の中で五感を使うことで、人間の中に潜んでいる本能が目覚める。
すべて自然素材でフレグランスを作るのは難しくなかった?香りを持続させるには化合物を使わなければならないと聞いたことがあって。
それはひとつのコミットメントではあるね。商品を作るために外部の業者の人工的な香料を買ったことはない。もし材料がほしかったら、ブーツを履いて山に採りにいくよ。1樽300ドルの劣悪な化合物を5ガロンドラムで提供したいという人たちから毎日オファーがあるけど、もしそれを使ってしまったら、自分たちの商品ではなくなってしまう。ビッグ・サーの香りではなくなってしまうんだ。皮膚のうえで長続きする香料を作るということでいうと、一日中持続する香りじゃなくてもいいと思っている。僕らのフレグランスは、持続しないし、甘い香りでもない。何時間か香りがして、いつか消えてしまうというところが気に入っている。本当のフレグランスはそうあるべきだ。
ある意味、今考えられている香水作りの概念を変えようとしていると。
その通り。どうしてフレグランスは、香水カウンターで売られる、奇妙な存在になってしまったんだろう? フレグランスは本来動物的な感覚を呼び起こさせるものだったはずだ。古代ローマ人は、ローズマリー、ラベンダーのような地中海周辺で採れる植物とオイルを煎じてタロイモケーキのようなものを作っていた。そして頭から香りをかぶり、体から香りを出させていたんだ。香りを自然と身に纏っていた。香りは、本来、自然を体に纏うためのもので、フレグランスを、かつての天然のルーツに引き戻そうとしている。
アルティザンのカルチャーが最初に盛り上がったサンフランシスコで、90年代の終わりごろから始めたというのがおもしろい。東海岸では、2007年か2008年頃になってようやく追いついた印象だけど。
同時期にジェームズ・フリーマンがブルーボトルコーヒーを始めたけれど、同じようなことをやっている人の数は決して多くなかった。今はアウトライアーのエイブとタイラーやアート・イン・ザ・エイジのダンのような人がいるし、シアトルにはフリーマン・コーツがある。同じことを、アルコールで表現したり、バックパックを作ることで表現したりしている人がいる。みんな、ハイカーやバックパッカーで、互いのことを見つけることができる。最高のピクルスを作ったり、いろんな人たちが、いろんなものを作っている、ブルックリンで起きているようなことが、いたるところで起きている。笑っちゃうようなこともあるし、テレビ番組「ポートランディア」は、そんな現象を皮肉っているわけだけれど、やりすぎで笑ってしまうこともあるけれど、でも美しいことでもある。今、これだけのことが起きていることは素晴らしいことだと思うし、みんな、素晴らしきアメリカのブランド。今起きていることは、アメリカがヘリテージ(遺産)を取り戻して、未来に継承することのできる商品を作ろうとしているんだと思う。
でもそんな動きは、香水業界では起きてこなかった。
香水業界は、50年代から70年代あたりから止まっていて、他の業界に比べたら40年くらい遅れている。コーヒーで起きたサード・ウェーブのカルチャーや、地元の食を食べようという「ロカヴォア」のムーブメントは、他のあらゆる産業でも起こっていたけれど、香水業界では起きていないんだ。古いフランスのフォーミュラをいまだに使っていて、使える材料の種類はわずか150種類、ルールに従っていると20〜30種類の香水しかできない。カリフォルニアだけでも8000種類以上の植物があるのに、香水の世界ではまったく使われていないんだ。
ジュニパー・リッジの香りは、焚いたときに、まるで森の中をハイキングしているような記憶を喚起させてくれる。特にニューヨークのような大都市に住んでいると。
それを「アロマティックスナップショット」と呼んでいる。自然の美しい光景は、ある瞬間には存在して、すぐになくなってしまう。たとえば花粉のシーズンを見逃すと、次の年までその瞬間はやってこない。人生と同じように、美しくてはかない。僕が残りの人生をすべて費やして、パフュームを作り続けても、終わらないくらい自然は大きい。自分がいちばん楽しいのは、自然に入り込んで、その終わらないパズルに挑戦し続けること。残りの人生、毎日、歩き続けても、体験できるのは、大自然のほんの一部だ。だから、自然の原料を使って香水を作る人が他にもでてきてくれることを願っている。ここで一日中香水作りの技術を披露してもいいし、経験談を話してもいい。他の人たちにもやってほしい。豊かな香りの世界が広がっていて、発見されるのを待っているんだ。

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