ART/CULTURE

Connecting the Dots

アンドリュー・ターロウ インタビュー

Portrait: James Ryang / Video Editor: Yuichi Uchida / Music: Jon Wiley / Marlow & Sons, Marlow & Daughters, Diner: Mel Barlow / Roman’s : Polina V. Yamshchikov / Wythe Hotel images courtesy of Wythe Hotel

おいしい、とにかくおいしい。この人が最初のレストラン〈ダイナー〉を開けてから約15年の間に、ニューヨークでする食事は確実においしくなった。アリス・ウォーターズがバークレーの〈シェ・パニーズ〉から始めた小さなムーブメントが、ポートランドやサンフランシスコに飛び火し、〈ファーム・トゥ・テーブル(産地直送)〉、〈ローカヴォア(地元の食材を食べるムーブメント)〉といったコンセプトを生み出しながら、めぐりめぐってニューヨークに辿り着くのにおよそ40年以上の月日がかかったとはいえ、アメリカで食べられるものが、どんどんおいしくなる背景には、アンドリュー・ターロウのような人たちが、農場や畜産農家と直接つながって、食材のクオリティと価格をコントロールしながら、素材の本来の味を活かした料理を出す努力を、日々してくれていることがある。
 〈ダイナー〉を開店して以来、〈マーロウ&サンズ〉、〈ローマンズ〉といった、それぞれ独特のスタイルのあるシェフが担当するレストランを次々と開店しつつ、合間に肉屋〈マーロウ&ドーターズ〉を開けたと思えば、〈ワイスホテル〉でコミュニティが集まれる場所を作り、自分と妻のケイトがキュレーションする雑貨ショップ〈マーロウ・グッズ〉、バー〈アキレス・ヒール〉、最近では卸専門のパン業者〈シー・ウルフ・ベーカリー〉をオープンした。クリーンでおいしいものを出すだけじゃない。食を通じて、食材がどこからやってきて、どう使われるべきか、自分のビジネスを通じて提案している。
 系列のレストランで使われる食肉の皮を解体場から引き取って乾燥し、ケイトがデザインするレザーグッズを作る。いうまでもないが、手間もコストも莫大にかかる。けれどレザーグッズを作るために育てられる動物と、食用に育てられる動物が別々という、一度切れてしまったリンクをつなげようとしている。アンドリューの思想は食の境界を大きく超える。
 アンドリューの経営するレストランを卒業したシェフや従業員たちが、今、ニューヨークの様々な場所で、次々と新しい試みを始めている。彼のレストランで食事をした人たちが、彼から受けたインスピレーションをそれぞれの場所に活かしていく。アンドリューがかつてアリス・ウォーターズからインスピレーションを受けたように。こうやって思想は受け継がれ、拡大していく。
 これまでこだわり続けてきたビジョンと今後の展望について、改めて話を聞いた。

(このインタビューはPeriscope iPad edition vol.1に掲載されたものです。よりインタラクティブなiPad版はからダウンロードいただけます。)

 

最初のレストラン〈ダイナー〉をサウス・ウィリアムズバーグにオープンしたとき、どんなビジョンを描いていましたか?
当初のビジョンは、近所の人たちが集まって食事をできる場所を作るということだった。当時は、ひと気がなくて寂しい一角だったから。今持っているビジョンと当時のビジョンはそれぞれ特色のある別々のもの。元のビジョンから今のビジョンが生まれたわけだけれど、いろんなことが変わった。
現在の哲学について教えてください。
うちのレストランはすべて、食料を農場から直接買っていて、肉も畜産農家から直接買っている。動物はまるごとやってきて、系列の肉屋〈マーロウ&ドーターズ〉で食用に切られて、解体されてレストランで使われる。動物の革は、妻がデザインするレザーバッグになる。レストランが、たくさんの構成要素をもつホリスティック(全体的)な存在になってきた。
それはどうやって広がってきたのでしょう?
完全に有機的な方法で広がった。長いプロセスではあるけれど、食材はどこからやってくるのか、知らない相手から食材を買うかわりに農場から自分のテーブルに直接運ぶためにはどうすればいいのかを知ろう、という考え方から生まれてきた。
<マーロウ・グッズ>では、食用に使われる動物の皮や毛を使って雑貨や衣類を作っていますよね。
〈マー ロウ・グッズ〉の商品展開も、これまでレストランを広げてきたように、有機的に広げていきたい。たとえば羊を見つけて、毛をとって、それを工場に持っていき、糸にしてセーターにするというように、ひとつひとつの点を結ぶことに多くの時間を費やしてきた。点と点とのつながりを徐々に広げていって、自分たちの服がどこからきて、どうやって作られているかを知り、衣類のラインを作ることができるかどうか試してみたい。大局的にいうと、国内でオーガニック・コットンを作れるか、とか、生産の過程をさかのぼり、点と点を結び直すことができるか、ということなんだけど。
人間たちがよりスマートに生きるために、考えるきっかけを与えてくれている気がします。
自分が教えているという意識はないんだけど。自分の仕事、自分たちが情熱を感じていることに従事しているだけで、哲学を教えるために時間を費やしてはいないと思う。単に、アメリカの北西部からやってきたウールを使って作ったセーターを買うことができて、それが10~15年着続けることができる高いクオリティのものだっていうことが、たまたま自分が信じていることで、それが消費者に共鳴してもらえるんじゃないかって。
アンドリューの厨房を卒業した人がレストランを始めたり、これまでやってきたことがコミュニティを広げる結果になっています。自分がコミュニティを築いているという意識はありましたか?
最初はなかったし、認識していなかった。でも核になる従業員とは親しい関係で仕事をするし、従業員の数も多いから、結果的に、ビジネスのやり方、アイディアの作り方、その実現の仕方を教えることになる。そこから従業員たちが自分のビジネスをやるようになるのは自然な流れだよね。秘密を作ろうとしているわけじゃないけれど、やっていることのすべてに手をかけている。そしてオープンなシステムを作ろうとしている。
最近ではベーカリーをオープンしました。
〈シーウルフ・ベーカリー〉はまだ乳児のようなもので、パンを焼くところを見せる場所はまだないけれど、系列のレストランのパンはすべてここで焼いている。パンはオンラインでも注文できるし、コミュニティの人々は〈ローマンズ〉や〈アキレス・ヒール〉で買うことができる。
レストランでは、食材がどこからきているのか、哲学については特に喧伝しているわけではないですね。
何かを教えられていると感じるような外食体験にはしたくないから。それに僕らが目立つ理由はそれだけじゃないと思う。地産地消が成功するためには、誰もが地元の食材を買うようにならないといけないし、それでみんなが同じ食材を使ったとしたら、自分たちのユニークなところはなんだろうという問題になってくる。 最終的には、ここで築いてきたコミュニティとか、人間として何者であるかとか、ゲストや周りのコミュニティとどう付き合っているかということが、自分たちの強みだと思っている。
子供の頃を振り返って、何が作用して今の自分になったと思いますか?
完全な偶然。食事にはいつも情熱を感じてきて、祖父母や両親も、食事には情熱があった。でも多くの人が持っている、生来の、他者の面倒を見たいという気持ちがあると思う。他人をケアするもっとも簡単なことのひとつが食事を作って、食べさせること。誰もが持っているごく自然な考え方だと思う。ビジネスだとしても、家庭でやるとしても。誰もが自然に、お互いのためにやることで、他の人間を気にかけることの素晴らしい表現方法だと思わない?
この仕事をしていて、何から一番インスピレーションを受けますか?
系列の店で仕事をしてくれる人たち、日々、この仕事に多大なるエネルギーを注いでくれる人たちの存在にいつもわくわくしているし、同様に農家の人たちや参加してくれるゲストたちに励まされる。点と点を結ぶことで、ゲストや従業員をケアすることができるという事実が毎日、僕を仕事場に向かわせるんだ。
  • Diner
  • Diner
  • Marlow & Daughters
  • Marlow & Daughters
  • Reynard
  • Reynard
  • Andrew Tarlow photo by James Ryang
Tags:
  • food
  • locavore
  • brooklyn
  • marlow&sons
  • diner
  • wythehotel
  • marlow&daughters
  • shewolfbakery
  • achillesheel
  • dinerjournal
  • reynard
  • romans
  • farmtotable

02.23.2015

Team Periscope is traveling in
PRE-ELECTION AMERICA

SOCIAL
  •    RSS Feed

TWITTER TIME LINE