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タイヨンダイ・ブラクストン インタビュー

Photography: Ports Bishop (Black and White), Grace Villamil (Color) / Video Edit: Aaron Neits / Music: Tyondai Braxton / Special thanks to Channel 13

タイヨンダイ・ブラクストンは、人気絶頂期のまっただ中に、Battlesを脱退して世の中を驚かせた。そしてその当時は、その理由や状況について、多くを語らなかった。けれどタイヨンダイは、この数年、ロックミュージシャンの領域を大きく越えた活動を始めた。まずは2009年に、Battles時代に録音したソロ・プロジェクト<Central Market>を、ロンドン・シンフォニエッタやロサンゼルス・フィルハーモニーといった、世界でも有数のオーケストラとの共演で演奏した。
そして昨年、HIVEと名づけたマルチメディア・プロジェクトをグッゲンハイム美術館で初公開した。タイヨンダイの最近の動きは、音楽的に斬新なアプローチとライフスタイルの選択のハイブリッドのようにも見えるが、古典的な「バンド」という概念を脱却して、より流動的、有機的に、プロジェクトベースでコラボレーションするという、最近の音楽シーンでよく見られるようになった手法とも合致している。現在の自分、そして今後の活動についてタイヨンダイに聞いた。

(このインタビューはPeriscope iPad edition vol.1に掲載されたものです。よりインタラクティブなiPad版はからダウンロードいただけます。タイヨンダイのHiveのビデオは、上の写真をクリックしてお楽しみください。)

Q.バトルズを脱退したあとの最近のプロジェクトは、ミュージシャンにとっての新しいモデルを提案しているようにみえます。
   現代モデルといえるような気がする。ミュージシャンがレコードの売上だけで食べていくことはもう不可能になった。もしミュージシャンとして生き残りたければ、ツアーで各地を回るか、ライブ演奏をし続けなければならない。これは何を意味するかというと、クリエイティブな人間としての自分を放棄して、プロの「ムーバー」になるってこと。ツアーっていうのはそういうことなんだ。ツアーの最中、演奏するのはせいぜい一日一時間くらいで、残りの23時間は、ギアを運んだり、動きまわったり、車を走らせたり、飛行機に乗ったりする。1、2月だったらいいけれど、たとえば1年間動き回るのは辛い。どこにもいないと同時に、どこにでもいる。孤立した存在になる。ツアーはエキサイティングだし、学習できることもあるし、経験として必要なことだ。自分がそれを体験したことはよかったと思うし、自分に合う条件だったら、今後もツアーはやると思う。
   でも、ツアーを長年やってきて年をとった自分からすると、今後ツアーをどうやっていくか、なぜやるのかを自問する必要がある。ロマンチックに聞こえるかもしれないけれど、僕はアート優先、お金は二の次という宗派の出身で、でも、ミュージシャンとして生き残りたいし、常にクリエイティブであり続け、音楽を人に見せたいという欲求を満足させてくれるモデルを実現したい。
   それは何を意味するのか、今、バンドとは何なのか。そういうことを考えることはエキサイティングなことだ。バンドというモデルに悪いことは何もない。そのモデルからまだインスピレーションを受けている人もいる。自分個人としては、マルチ・メディアにも興味があるし、バンドという形態を越えたやり方や、もっと総合的なアーティストとしての活動に興味がある。かつてはたとえばアルバムのジャケットのデザインが、ミュージシャンがヴィジュアル面で表現できるチャンスだった。でもテクノロジーが以前より入手しやすく、理解しやすくなったうえに、音楽、映像、アートに取り入れられるようになった今、それを音楽に取り入れようとしないほうがおかしな話。音楽だけじゃなくて、「体験」を提供できるようになったということ。そういうことを取り入れようとしている。
Q.バトルズを脱退したあと、まずやったことは〈Central Market〉でオーケストラと共演したことでしたね。
   〈Central Market〉は、今までの人生の中で、自分にとって、もっとも芸術的に満足度の高いプロジェクトだった。共演したミュージシャンたちも素晴らしかった。〈Central Market〉は、大掛かりなプロジェクトだったから、共演相手はオーケストラしか考えられなかったけれど、核となるミュージシャンのグループ〈The Worldless Music Group〉と旅をした。僕の音楽は、エレクトロニック・ミュージックやロックの影響を受けているから、オーケストラと組んだときに、〈The Worldless Music Group〉が音楽的に、また文脈的に強い基盤を提供してくれる結果になった。
Q.その後、まったく違うタイプのプロジェクト〈HIVE〉がありました。
   バンド、アンサンブル、そして、5人のミュージシャンが同じ立場で参加するというモデルといった、興味のある領域をすべて取り入れながら、「ハブ」の役割を果たすステージを作ったり、エイリアンっぽいライアンアップを実現することでヴィジュアルアートの要素もあるということがやりたかった。進化が何を意味するのかを考えるのが好きなんだ。
   それは既存のやり方とは一線を画した音楽の作り方だった。技術的な枠組みのなかで、コミュニティ的要素をシュミレーション化して、モジュラーが互いに影響しあうアルゴリズムを作る。マシーンのコミュニティを作るというか。こういうスタイルを学ぶ必要があったから、このプロジェクトをやってよかった。〈HIVE〉をやった今、次はライブ演奏とアルゴリズム的な要素を取り入れたオーケストラの曲を作りたいから。〈HIVE〉は、今後、オーケストラ、バンド、エレクトリック・ミュージックを取り入れたハイブリッド的なコレクティブを作るために学ばなければいけないことを習得するための途中経過的プロジェクトだった。
Q.今、多くのミュージシャンたちが固定バンドに所属するより、プロジェクト単位のコラボレーションに参加するという方法に移行していて、〈HIVE〉もそういったプロジェクトの一つのように見えますね。
   コミュニティの概念とは大きく関係がある。ギター、ベース、ドラムがいるというコミュニティの形式から、より広い意味での「コミュニティ」という概念が、技術的に何を意味するのか。相互接続 (Interconnected)」という概念があって、ソーシャル・メディアがいつも話題になっている現代だから、それを解釈したらおもしろいだろうと思った。それをライブ環境に持ち込んだらどうなるだろうって。モジュールのシグナルを、他のミュージシャンに送って、それを受け取ったミュージシャンが自分の音に取り込む。〈HIVE〉でやったことは、本質的にフェイスブックで友達リクエストを送ることと同じで、「この情報を受け入れてくれる?そしてその情報をどう使う?」と働きかけること。受け手はそれを拒否することもできる。ミュージシャン同志の対話が発生するというソーシャル要素にも興味がある。それも自分がアイディアとして検証し、取り入れたいこと。ただそれはコンセプチュアルなことで、最終的には音楽としての完成度は高くないといけない。だから、そういうインスピレーションを調和させながら、強いコンセプトを持ち、機能性も高く、音楽的にもおもしろいものを作るためにどうすればいいんだろう?と考えている。
Q.こういった新しいプロジェクトはライフスタイル的な選択でもあった?
   バンドを辞めることになった理由のひとつは、バンドに対して費やす時間の投資と、自分がやりたかったこと、自分のために築きたかったこととのバランスの問題があった。50代になったときに、バンドの音源だけがあって、自分が30代に書いた曲を演奏し続けているという状況には陥りたくなかった。
   技術とそのコストは、大きな要因でもある。なぜなら、自分が作れるものに、大きく作用するから。作っているものが素晴らしくて、しかもそれがコスト的に可能なものであれば、それがゲームチェンジャーになる。しかも、技術の発展が押し進められている背景には、演奏するフォーマットを拡大したいという欲求と、この時代に、バンドの一員であること、パフォーマーであることが何を意味するかという文脈がある。何かを想像して、それをプロデュースするために、かつてより多くの選択肢がある。
Q.バンドという概念が徐々に変わっているようにも思えます。
   (長い間ツアーをしてきた人間としての)自分の感触を投影しているだけかもしれないけれど、バンドという概念が少し飽きられてきたのかもしれない。バンドの活動を体験して、ひと通り楽しんだうえで言ってるわけだけど。新しいフォーマットからもっと作れるものがあるだろうし。個人的には、他者とコラボレーションするという発想はまだまだエキサイティングだけど、バンド文化はまったくエキサイティングじゃない。新鮮味に欠けるし、時代遅れ。といったそばから、矛盾することも考えられる。というのは、すでに廃れたと思われたモデルが急にインスピレーションを与える存在になることもある。その一番いい例がニルヴァーナ。ギター、ベース、ドラムという形式のバンドを散々みたあとに登場したのに、朝食で食べる天然酵母のパンくらい新鮮だった。もっといえば、僕は、オーケストラ音楽が大好きなわけだけど、それこそ時代遅れの象徴なわけで。
   最終的には、ひとつの文化や考え方に盲目的に従うかわりに、自分が好きな要素をすべて融合して、異なるプロジェクトをやりながら、その考え方を自分の頭のなかに維持していく。既存の考え方やフォーマットのひとつひとつに価値がないというわけじゃなくて、ひとつの考え方に従うやり方が活気を失わさせるのだと思う。
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02/20/2015

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