We are made of the environment

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坂本龍一 インタビュー

Interview: Yumiko Sakuma / Photos: Courtesy of moreTrees

今さら坂本龍一さんの音楽活動について、説明する必要はないだろう。「イエロー・マジック・オーケストラ」が70年代にブレイクして以来、ベルナルド・ベルトリッチ、オリバー・ストーン、大島渚など、国内外の多くの鬼才たちと、多くの領域にわたってコラボレーションしてきたかぎりなく多面的なアーティスト。2011年の東北大震災以来、エネルギー問題にまつわる活動も多い一方で、札幌芸術祭のゲスト・ディレクターを務めたり、鈴木邦男氏との対談集「愛国者の憂鬱」(金曜日)を発表したり、日本人として、また地球人としての精力的な活動には目を見張る。そんな坂本さんが、2007年に設立し、これまで森林保全に向けた植林活動などを行ってきた一般社団法人〈more Trees〉で、今、新しい挑戦をしているという。これまで破棄されてきたニホンジカの皮を有効活用して商品化しようというプロジェクト、エ『シカ』ルライフである。ニューヨークで、坂本さんに、このプロジェクトについて、環境主義と消費活動のバランスについて話を聞いた。(このインタビューはPeriscope iPad edition vol.1英語版に掲載されたものを和訳したものです。よりインタラクティブなiPad版はからダウンロードいただけます)。

〈moreTrees〉でシカ革を使ったプロジェクト、エ「シカ」ルライフをやっていらっしゃいますが、どういう経緯で始まったんでしょうか?
   〈moreTrees〉で、日本の森林を見ていて、現場のおじいちゃんたちからも話を聞くチャンスがあるのですが、鹿の害が日本中で問題になっている。天敵だったニホンオオカミが絶滅してしまったから増えてしまった。鹿の肉を食べる習慣も全国的にあるわけじゃないから、消費されないんですよ。植林した森に入って来て、特に冬は食べ物がないから樹の皮を剥いで食べてしまう。小さい苗木みたいなものも。里に降りて来て、農家の畑を荒らすようになって、環境省が毎年何千頭って数を決めて駆除をしていたんですけど、駆除した後の死体が使われないんですよね。食べられずに捨てられちゃう。それで、有効利用しなきゃ、と、3年ほど前に皮を商品開発できないかという話になったんです。ちょうど〈more trees design〉という間伐材を有効利用するために作られた組織があったので。さらに1年ほど前に、鹿の駆除費が国の方針で急に上がって、鹿を殺すことで受け取れる報奨金があがったんです。鹿の尻尾と耳を切って持って行くとお金が貰えるんですが、それで死体を埋める事もしないで打ち捨てて、耳と尻尾だけ持って行っちゃう人が増えた。ただ殺されるだけという鹿が多くなってしまっているのが現状です。
鹿の遺体が捨てられている状態から、どうやってファッションに使えるんじゃないか、という発想にたどり着いたのでしょうか?
   まず食肉として応援していく、ということもやりました。それは鹿がとれる地元の仲間と繋がって、食肉をレストランでも食べられるようなワークショップをやったりしています。じゃあ剥いだ皮も何に使えるんだろうっていうことになって、何かプロダクトに落とし込もうと。
コストの問題があると思うのですが。
   間伐材も、商品にするためには、森から降ろして、乾かして、生産して、という部分にコストがかかる。昔なら割り箸だったかもしれないけれど、今は、海外からもっと安いものが入ってきているから勝てません。だから、いいデザインの商品を作って、興味をもってもらい、
「実はこれ間伐材なんですよ」というところから「何それ?」って気づいてもらっていくしかない。〈more trees design〉の商品開発を担当している部署でやっているのですが、やっぱり商品が売れないとそれが回らない。鹿の革も同じですが、これからです。作り手や消費者に知ってもらうことで徐々に広がっていけばい
い。トップのデザイナーを巻き込んで、良いデザインの商品を作ろうと。始まったばかりですが。
これまで鹿の皮を使うというのはあまり聞かなかった気がします。
   みなさんが思っているよりは使われているようです。日本では年間40万頭程度が捕獲、駆除されているのにもかかわらず、ニュージーランドや中国から輸入されています。国内ではサプライチェーンが確立されていなかったり、捕獲、駆除、剥皮の際に革に傷がついてしまうことがあって、供給面が安定する海外に頼ってきてしまったのかもしれません。
靴やバッグに使われる革がどこからきているのかということはなかなか考えないですよね。
   そうなんです。たとえば高級ブランドが使うような柔らかい革を作るためには、子牛を熱湯に落とすような方法も使われている。そこまでして作られた柔らかい革なんて使いたくないじゃないですか。自分たちが使っているものがどこからきて、どうやって作られているか考えないと行けないし、人間の食物連鎖のシステムのなかから出てくるのが理想なんです。ただ、間伐材でも「環境を守ろうって言っているのに樹を切っちゃっていいんですか」という人もいるし、鹿の場合は純粋な環境主義の人からは「動物の革でしょ?」と思われるかもしれない。ただそれだけは処理できない。理想的には植林せずに自然だけでまわるならそのほうがいいけれど、残念ながら植林はしなきゃいけないし、ニホンオオカミという天敵を失った鹿がそれを荒らしたら、人間が天敵になるしかない。どこかでバランスの取りどころをきちんと見据えて、殺したらそれは最低限有効利用するという考え方が必要だと思う。イチかゼロかみたいな、消費主義か環境主義か、そういう線は引けないと思うんですよね。
坂本さんは、もやっていらっしゃるし、原発問題にも取り組んでいらっしゃいますけど、地球人感覚はどこで身につけられたのでしょうか?
   80年代に「蕩尽(とうじん)」、つまり消費し尽くすという言葉が流行りましたが、それくらい資本主義的な人間だったんです。91年に一番下の子どもが生まれて、そのあと老化が始まって、老眼の眼鏡を買ったんですね。その頃、1973年のローマクラブが出した「成長の限界」という本を読んだ。様々なデータを検証して、このままいくと地球環境が終わってしまう、資源が枯渇するって警告した本なんですけど、イントロに「人間というのは視野が狭い、特に未来に対する視野が非常に狭い」という趣旨のことが書いてあった。それまで遊ぶことしか考えずに、先のことなんて考えなかったけれど、息子ができて、あと20年育てないといけないことを考えたら、健康のことを考えるようになった。となると食い物とか、空気という環境について考えるようになって。自分の外にある物を日々自分の中に取り入れて、食べたり、飲んだり、息を吸ったりして生きているわけじゃないですか。自分も環境で作られているんですよ。それでだんだん変わったんです。
坂本さんが考えるユートピアはどんな場所ですか?
   1999年にライフというオペラを作ったときに、いろんな著名人に「あなたにとっての救い(salvation)とはなんですか?」という質問をしました。ローリー・アンダーソン、ベルトリッチ、ダライラマ法王、柄谷行人にも聞きました。その答えを語っているビデオと音をオペラに入れ込んで使ったんですが、なかでもベルトリッチの答えが秀逸で「救いがないことが救いだ(There is no salvation is salvation)」と言ったんです。救いとかユートピアを語る必要のない世界が僕にはユートピアです。一介のミュージシャンが、社会に声をあげずに音楽だけに集中できる世界だったらいいなと思うことがあります。
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07.07.2015

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