THE STORY OF DUAL IDENTITIES

ART/CULTURE

THE STORY OF DUAL IDENTITIES

二つのアイデンティティの物語

Text: Periscope

ジョディ・サブラルは、つい最近までトルコを拠点に活動してきたアメリカ系イギリス人の放送ジャーナリストだ。トルコを出る前の最後の仕事は、イラン政府が運営する英語放送プレスTVのトルコ特派員の役職だった。そのユニークな体験を、彼女は処女作「チェンジング・ボーダーズ」 に投影した。偶然「新しい中東」の地図を手に入れてしまうイギリス人ジャーナリストのケイト・ロバーツをめぐるこのストーリーは、中東情勢における西側諸 国の介入という問題に触れつつ、トルコという国で、イランの放送局に勤務する欧米女性ジャーナリストのユニークな生活を垣間見せてくれる。

Q. 問題の地図について教えてください。
この地図は、もう何十年も、中東では出回っているもの。中東の人たちにとっては新しいものではない。中東の人々は陰謀論が大好きで、この地図は陰謀論の究極の形。オスマン帝国が崩壊したあと、1923年にトルコ共和国が建国された。シリア、イラク、ヨルダン、イエメンを含む中東の国境は、そのとき、フランス、イギリス、アメリカの連合国がひいたもので、現代トルコの国境もそのとき決められた。そのとき連合国がクルド人のグループに、国を約束したわけだけれど、つまり、この陰謀論は100年近い歴史に基づいていることになる。
Q. この本を書いたのはアラブの前ですか?
2010年の夏にこの本を書きだして、そのときはチュニジアとエジプトの革命は起きてなかった。2011年1月になって、アラブの春が起き始め、それから2章以降を書きなおしたり、新しい要素を付け加えたりした。ストーリーが急に意味をなしはじめた。アラブの春以降のNATO(北大西洋条約機構)の軍事介入があって、陰謀論がわずかに現実を帯びたように感じられた。中東の人々にとってはこの地図は新しいものでなくても、西側の人には新しいものだと知っていたから、陰謀論や政治を誰でも読めるものに落としこみたかった。こういう情報は、政治の本や歴史の本には入っているけれど、最後まで読むのは難しい。政治の本を読めないような人のためにこの本を書きたかった。
Q. ジャーナリストなのにフィクションを書くのは難しかったですか?
中東について本を書きたい、この地域で起きている対話をトルコの場所を知らない人に説明したいと考えたことを覚えている。最初に難しかったのは、ものごとを簡素化するというところ。ニュースや政治の世界で働いているから、ジャーナリズムの言語は自分にとっては親しみのあるものだけど、そうではない人もいる。当初の下書きは、ジャーナリスティックなスタイルで書いたし、今でもその要素はあるけれど、ジャーナリズムの本よりはフィクションであるというところまでたどり着いたと思いたい。中東について知らない人のために書いたけれど、知識のある人も楽しんでくれているようだからほっとしている。
Q. 自費出版を選んだ理由は?
いろんなことがある。出版業界はあまりにも大きくて、登ることのできない山のように思えた。「2010年版ライターズ・ダイジェスト・ブック」という本を持っていて、そこにはさまざまなジャンルのエージェントや出版社がリストされているのだけれど、自分がどのジャンルにあてはまるのかわからなかった。ニューヨークの文学エージェントには「女性のフィクション」と言われたけれど、これまでのところ、「政治フィクション」でもあるから、読者のほとんどは男性だし。トルコにいたから、出版業界にも身をおいていなかった。そのプロセスにやる気をそがれていたら、友達にLULU.COMを勧められた。お金のためにやったわけじゃないし、ストーリーを語りたかっただけ。だから出版して、何が起きるか見てみようと思った。
Q. フィクションと呼んでいますが、あなたの実体験に基づいているのだろうかと思うところもありますが?
書きながら、「問題になるだろうか」と考えた。でも、イラン人が必ずしも悪役じゃない物語を書きたかったし、登場人物も好ましい人ばかりで、センセーショナルにすることはしなかった。登場人物は私の正直な体験に基づいている。情報のギャップの架け橋になりたかった。アメリカでは、報道のせいで、人はイランについて悪い印象を抱いているもちろん問題はあるけれど、彼らの人間的な側面を見せたかった。でも究極的には、この本はフィクションだと言える。
Q. あなたはトルコに住みながら、中東の企業のために働くフリーのジャーナリストなわけですが、自分のユニークな立ち位置についてどう考えていますか?
二つの世界を行ったり来たりできることは恵まれていると思う。この本はその結果としてできたもの。アメリカ人の両親にイギリスで育てられ、いつも自分が中間にいるような気がいた。イギリスのなまりで話して、階級社会で育ち、見かけがみんなと一緒でも、イギリスにルーツがなかったから、馴染めたり、受け入れられたわけではなかった。だからどこかいつも居場所がないような気がしていたし、今の自分は、そこから自然に派生したものだと思う。トルコに長く住んだのは、トルコという国が、アイデンティティについて大きな疑問符を抱えているから。世俗なのか、イスラム教なのか、中東なのか、ヨーロッパなのかという。自分は「アメリカ人なの?イギリス人なの?」という二つのアイデンティティの疑問をもって育った。だからトルコでは、二つのアイデンティティを受け入れられたんだと思う。
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11.08.2012

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