IT ALL STARTED WITH AN AX

STYLE/DESIGN

IT ALL STARTED WITH AN AX

ピーター・ブキャナン・スミス、インタビュー

Text: Periscope / Peter Buchanan-Smith Portrait: Ports Bishop / Translation: Kana Ariyoshi

2009年に「パートナーズ&スペード」で壁に斧がかかっているのを見た。「パートナーズ&スペード」は、「ジャック・スペード」の生みの親で、ブランドを売却してからは、J.クルーの再生のカギのひとつになった「Liquor Store」 のコンセプトをはじめ、さまざまな企業のブランディングを手がけてきたアンディ・スペードが運営する事務所兼ギャラリーである。なんでまた斧なんだろう? と思ったが、12本限定で作られた斧はあっという間に売り切れ、それをきっかけにどんどん注文が入るようになったという。斧を作ったのは、雑誌『ペーパー』 の元クリエイティヴディレクターであるピーター・ブキャナン・スミスだった。3年経ったいま、その斧から偶発的に始まった「ベスト・メイド」は、キャンプ 用品からおもちゃ、アパレル商品までを幅広く扱うブランドに成長した。それぞれの商品を作るのに、いちばん適した工場を見つけ、工場とがっつり組み合って 腰を据えた商品開発を行う。ひとつひとつの商品にはストーリーがあり、それをオーディエンスとシェアする。いま、「ベスト・メイド」の商品はニューヨーク を中心に、拡大するアウトドア人口やクラフトマンシップを重んじる層に幅広く支持されている。斧が生まれたきっかけ、それがどうブランドに発展したか、 ファウンダーのピーター・ブキャナン・スミスに訊いた。

Q. 斧を作り始めたきっかけは?
2009年に不景気がやってきた。リーマン・ブラザーズの破綻、バーナード・マドフ事件が起きて、世界は終末に向かっているように感じられた。ブッシュ政権からようやく抜け出した頃だよね。ちょうど個人的にも辛い時期だった。離婚を経験し、子供のような存在だった飼い犬を亡くした。さらに自分の仕事を信じられなくなった。グラフィックデザイナーとして、パッケージとアイデンティティ・デザインを専門にやっていて、景気の悪化で自分の職業そのものが浸食されているような気がした。クライアントを失い、予算は削減された。
 その時、アンディ・スペードから、彼がオープンしたばかりのギャラリー「パートナーズ&スペード」に何か出品しないかと声をかけられた。きわめて潜在意識的に、斧を選んだ。斧の柄をペイントしてアンディに送ったらとても気に入ってくれた。さらに1ダース作ったらすぐに完売した。その時に、この斧にはもうちょっと意味があるんだと気がついた。この斧は、多くの人が自分の会社を始めるときの理由と同様、自分にとって、自分の事業を立ち上げることで状況を自分でコントロールする状況を作り、自分が独立した存在になろうとする言い訳だったんだ。でも同時にこの斧とそれに付随するライフスタイルにより深く入り込むいいチャンスにもなった。言い換えれば、屋外で薪を割るという、最もベーシックな形で生きるということに。人生の暗い時期、僕がやりたかったのは、外にいて薪割りをすることくらいだった。コンピューターの前で多くの時間を過ごしている人たちでも、その感覚を共有する人がたくさんいることに気づいた。1ダースの斧から、多くの斧を作るようになった。シンプルな道具で世界を作り出せるチャンスだと感じた。同じような気持ちを抱かせ、同じような空間を満たし、同じような使い方を提供する他のモノや道具も取り扱えないか試してみたかった。
Q. このブランドを立ち上げる前のあなたと道具の関係は?
小さな農場で育った。シンプルなツールに依存するような。一日中、大きなトラクターに乗って走り回っていたという感じではなくて、フェンスを建て、干し草を運び、薪割りするような感じだった。農場育ちだけど、女兄弟しかいなくて一緒に遊ぶ人が他にいなかった。だから誰もいないような場所で何かを作って一人で時間を過ごすことが多かった。斧やハンマー、のこぎりみたいな“大人”用の道具は、僕のツール・ボックスの一部だった。そういうものをいつも使っていた。
Q. クラフトマンシップが以前より評価されるようになってきたけれど、いいタイミングでビジネスを始めたと思いますか?
そうだね。さっきの話に戻るけど、一日中コンピューターの前に座っていることへの反動や反発なのかもしれない。今やアメリカ国内の製造業への回帰が注目の話題になって、「メイド・イン・アメリカ」商品へのノスタルジアがある。異論を唱えるつもりはないけど、世の中はどこからか来てどこかに消えてしまうような製品で飽和状態だったと思う。モノがどこでどのように作られたかなんて気にしていない。だから簡単に使い捨てされる。自分たちが着る服や食べる物への愛着などほとんどない。そんななかで、始まりはスローフード運動のようにシンプルなことだった。経済が破綻したことで、お金は少なくなったけれども、以前よりもよいお金の使い方をするようになった。そうして、どこでどんな風に作られた商品か、その商品への思いが分かる物を買おう、名もない工場で作られた物じゃなくて。そういったことがこうした流れになった。
Q. ニューヨークで斧を軸にビジネスが成立することに驚くけれど、斧が実際に使われているかは気になりますか?
気にかけているよ。みんなに斧を使ってもらえれば嬉しい。ただお客さんや関係者と話してみると、半分くらいの人が使っていて、残り半分は使っていないみたいだね。「使う」といっても、文字通り、外に出て木を割るのに使う人もいれば、壁に飾って使っている人もいる。斧は自然と僕らをつなぐ窓のようなものだから、それはいい使われ方だと思う。最悪のシナリオは、誰かのベッドの下でほこりをかぶっていることだ。ゾッとするよ。だから欲しがっているかも分からないような人に斧を無料で贈呈することは絶対にしないというポリシーがあるんだ。
Q. 斧に「不屈」という言葉がついていたり、ワッペンに「オプティミズム」と刺繍されたりしているのにはどういう思いがありますか?
それは斧を売っているという事実からきている。つまり斧は自分を傷つけることもできるし、最悪の場合、他人を傷つけることもできる道具だってこと。危険な道具だからとても美しくセクシーだという側面もある。これまで損害賠償保険に払ってきた額以上を費やすよりは、斧ごとにあるメッセージを込めることの方がもっと意味があると思った。「斧をご購入頂きありがとうございます。責任を持って正しくお使いください」といった健全で道徳的なメッセージだ。「勇気、優雅さ、思いやり、不屈の精神」という4つの軸が斧を形作っている。斧の売り手に、商品について道徳的な姿勢を持つことは期待されていない。でも実際にやってみて、そのうち、他にも適用できないだろうか、良いメッセージを発信する会社になれないか、と考えた。僕らは、よき市民であったり楽観主義でいるべきだと発信する商品を作ってきた。ラルフローレンが富とシャトーに対する憧れを促進しているとしたら、勇気がわき、大邸宅がなくても満足できるようなインスピレーションになりたいんだ。

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11.08.2012

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