TIM HETHERINGTON INTERVIEW

ART/CULTURE

TIM HETHERINGTON INTERVIEW

ティム・ヘザリントン、インタビュー

Text: Yumiko Sakuma / Photography: Ports Bishop / Translation: Momoko Ikeda

2011年4月20日に、リビアの前線を取材中に殉職したティム・ヘザリントンの名前の前には、「戦争ジャーナリスト」という肩書きがつくことが多かった。本人はそう呼ばれるのを嫌っていたようだ。サウス・ウィリアムズバー グのロフトに暮らし、イギリス人らしく午後のお茶を愛し、情熱的に本や写真について語ったティムは、ニューヨークのアート・コミュニティの人気者でもあったけれど、亡くなったときには、ホワイトハウスが声明を発表し、リビアの街のスクエアにティムの名前が付けられた。彼が亡くなって、2008年に録ったインタビューを再訪した。

Q. この仕事を始めたきっかけは? 写真と旅、どちらが先でしたか?
旅をすることが先にあった。転々と移動しながら育った。育つ過程で、僕の家族は計12カ国もの場所に暮らした。両親も元々よく動 き回っていた人たちで、そういうことが体に染み付いた。1992年、イギリスが不況に見舞われ、職が見つからなかったから、国を出て旅をすることにしたんだ。旅のおかげで写真を撮るようになった。これまで70~80の国を訪れたことがある。2005年~2006年あたりには西アフリカに住み、アフリカ諸国 25~30カ国で仕事をした。依頼仕事のために旅をするので、「この仕事のためにあの国へ行ってくれるかい?」と聞かれる。でも、私はホットゾーンから ホットゾーンへと飛び回る戦場カメラマンの仕事に興味はない。僕がしているのはそういうことではなく、もうちょっと突っ込んだこと。だから作品では長期的なプロジェクトを専門としていて、そのためにシエラレオネ、リベリアへと住み渡り、最近はアフガニスタンで時間を過ごしてきた。
Q. いわゆる戦場カメラマンと自分をどう区別していますか?
僕の作品は物語。ストーリーに強い興味を持っている。物語を、政治的な物語を語るために、様々な視覚手法を取る。僕の作品は、紛争や政治につ いてであるけれど、たとえば兵士が寝ている姿のように、人々の親密な関係を通じて物語にリンクする。僕が興味があるのは、被写体と同じように生活し、何かを共有したりして、彼らと深く関わること。
Q. あなたはストーリーを伝えるためにいくつものメディアを使っていますね。
昨晩、ある人が言ってた。「Your ideas are bigger than your media(伝えるアイディアは表現手段よりも大きいものだ)」って。ある人について言ったことだったのだけれど、この言葉が気に入った。これまでは自分 たちのことをライターとかフォトグラファーと定義していたけれど、テクノロジーがこんなにも柔軟になったことによって、それ以上の存在になることが可能に なった。僕が何者なのかを決めるべきは被写体。媒体の仕事を見た人は、僕のことをフォトジャーナリストだと思うだろうし、インスタレーションを見た人は僕 のことをアーティストだと思う。僕はその両方なんだけれど、ふたつの世界をつなぐのは被写体なんだ。写真や映画のコミュニティに馴染んだと思ったことはない。それが自分なんだと思っている。いつも外にいる。
Q. どうやってその境地に?
ただとけ込めなくなった、ということだと思う。デジタルメディアと紙媒体との違いによって、考え方が変わった。紙というメディアでできたことと、写真をスキャンしてデジタル化させ、投影することのできる柔軟性の違いのなかで、デジタルな世界が、自分に何ができるかについての考え方を大幅に変えたんだ。
Q. 被写体との関係を作る上で役に立つあなたの資質はなんだと思う?
僕はいわばカメレオンだし、そうならざるを得ない。旅をし続けたことで僕はカメレオンにならざるを得なかったし、どうやって溶けこむかを学んだ。知らない国の知らない街に連れてこられて、友達もいなかったら、適応せざるを得ない。溶けこむ必要もあるけれど、ぎこちない思いもする。僕が被写体に近づくとき、部外者だから気まずく思うときもある。問題はどう内部に入り込むか。結局、どうやって人と通じ合うかを学ばないといけない。そしてそのとき一番大切なのは、正直さだと思う。作品を見れば、その人が正直であるかはわかるもの。感じ取れるから。人と関わるときだって、正直であるかどうかはわかる。人間だから、ほんの僅かな体の動きからも何かを感じ取る。僕はたとえ知らない国に突然連れて行かれても、そこに適応してサバイブできると思う。何年もやっているうちに、本能的にどう人と関わるか、もっと直感レベルで分かるようになる。勘が働くようになるんだ。これはいい状況なのか? 悪い状況なのか? 立ち去るべ きか留まるべきか? 現地の言葉は話せないけれど、その場の状況や相手の体の動き、雰囲気から状況を読み取るようになる。そして本能的に人と通じあうよう になる。極端なことをいえば、自分が誰かに対し正直であって、相手も正直でいてくれることから、自分の正直さを感じ取ってもらえれば相手も同じように感じるはず。だから、どう行動するかといえば、正直でいるしかない。正直でいれば、相手とつながりあうことができる。これが関係性の作り方で、さらに作品が誠実であれば、人とも同じようにつながることができる。とても簡単なこと。
Q. あなたは白人でとても背が高い。目立つでしょう?
そう。だからアフリカにいる時はハッセルブラッドを使う。リベリアではすべての作品を中判カメラで撮った。僕はとても背が高いから、顔にカメラを近づけた時、その姿がとても攻撃的に見える。特に戦場ではなおさらね。ハッセルブラッドやローライフレックスを使うことで、カメラが低い位置にくる、それで人との関わり方が大きく変わった。「今僕はあなたに話しかけていて、写真を撮っているけれど、あなたにも僕の姿が見えていますよね」という風に。
Q. あなたを惹きつける被写体には共通項はありますか?
自分の作風を把握するのにはとても時間がかかるし、いつも変化し続けるもの。でも過去のプロジェクトを見返してみることで、自分の軌跡を分析すること はできる。今なら僕の仕事は、“親密さ”を感じさせるものであると言える。僕にとって、被写体と関係を築き、彼らにできた作品を見せることはとても重要なこと。これは彼らと世界とをつなぐような作業。僕はリビアにいる人々とつながっていて、そこからあなたも彼らとつながっている。僕らはみんな否応なくつながっている。これは人の営みのサイクルの中で起こっていること。もうひとつ言えば、僕の作品の多くは政治的で、それは僕が紛争に興味をもっているから。理由は紛争というものが人間としての経験のなかでもきわめて極端なところにあり、でもそこにはとても人間らしいことがあるから。人は、僕が紛争を題材にするのは、戦争が悪だと示すためだと決め付ける。一度も戦争に行ったことがない人は戦争を悪だと思う。もちろん、戦争は一種の悪だけれど、でもそこには彼らが知らない他の何かもある。たとえば戦争中の写真でも、被写体2人の間に、本当の優しさの瞬間、愛の瞬間が芽生えている。 二人の人間の間に思いやりの瞬間、つまり愛がみてとれる。戦争には、恐ろしいことがいくらでもある。戦争という人的行為の極限においても、優しさが存在する瞬間がある。「悪」は、隅々まで行き届いている。でも愛のある瞬間を見つけることができる。極限の行為のさなかでも、人間はやはり人間なんだということが、重要だと思う。“これが善でこれは悪”というよりも、もっと微妙なこと。それが僕の興味を惹くんだ。だから僕がそれを表現することができれば、僕はもう一度その写真と繋がりを持つことができる。そしてリベリアと繋がりを持った経験のない人が、 写真を通してリベリアと繋がりを持つことができる。それが大切なんだ。そうすれば、「リベリア人たちは殺し合いをしている気の狂った奴らだ」な んてことは言えないはずだ。それが僕のやりたいことなんだ。
Q. どうしてあなたは紛争に興味があるのでしょう?
紛争にとりつかれたのは、人間の感情をこれほど明確に見ることができる職業は他にほとんどないから。だから僕は戦争に強く惹かれる。戦時における人間の感情は、極端なまでに明瞭だ。他のどんな状況で、これほど強烈な愛、憎悪、貪欲、許しを見ることができる?そこで目にすることは信じられないようなことだ。 そこに中毒性があるし、僕の写真を見る人が感じるのはそういうことだ。つまり、写真を見た人も、それを経験しているわけだ。恐怖、それも完全なる恐怖感、 そして生きていることに対する喜び、こういうことが麻薬のように作用する。僕はアフガニスタンの兵士と数年過ごしたんだけど、最近、一人の兵士がこう言っていた。「戦争を離れて、休暇に入っているとき、何も感じない。何も感じないんだ」。戦争のさなかにいるとき、感情が高まりすぎて、そこを離れたとき、何もかもが灰色に見えるんだ。
Q. NYやロンドンに戻った時、その状況にどう対処するのですか?
僕は自分のことを戦場カメラマンだとは思っていないけれど、友達に戦場カメラマンと名乗っているやつがいる。彼に一度、戻ってきた時の鬱状態にどう対処 しているのかと聞いたことがある。彼は僕に「ただ、全て受け入れるんだよ。落ち込んで、家に帰る。ドアをロックして、メランコリックな音楽をかけるんだ。 コニャックを飲んで、ただその状況に入り込むんだよ。頑張ってやってみるんだ」と答えた。僕はそれを聞いて、なんていい方法なんだと思った。ニック・ケイブやトム・ウェイツをかけて、悲しみに昏れる。奇妙な仕事だと思う。なぜならどこかこの仕事に抵抗したくなる自分がいるから。この仕事はある種とても破壊 的で難しい仕事。自分とまわりの人々をとてもストレスの強い状況に置くことになる。でも、これが私の仕事で、私自身の一部でもあるんだ。
  • © Tim Hetherington
  • © Tim Hetherington
  • © Tim Hetherington
  • Long Story Bit by Bit: Liberia Retold
  • © Tim Hetherington
  • © Tim Hetherington
  • © Tim Hetherington
  • © Tim Hetherington

Links

Tim Hetherington's website
http://www.timhetherington.com/
Remembering Tim
http://www.timhetherington.org/
Sebastian Junger remembers Tim Hetherington:
http://www.vanityfair.com/magazine/2011/04/sebastian-junger-remembers-tim-hetherington-201104
Tags:
  • #photography
  • #journalism
  • #Afghanistan
  • #war
  • #interview
  • #travel
  • #Tim Hetherington
  • #Sebastian Junger
  • #Liberia
  • #Libya
  • #Ports Bishop
  • #Yumiko Sakuma

11.08.2012

Team Periscope is traveling in
PRE-ELECTION AMERICA

SOCIAL
  •    RSS Feed

TWITTER TIME LINE